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FinOps
September 1, 2022

用語解説:CCoE

新井 俊悟
取締役 COO/CFO
翻訳は機械翻訳により提供されています。提供された翻訳内容と英語版の間で齟齬、不一致または矛盾がある場合、英語版が優先します。

エンタープライズ企業が DX を成功させるためにクラウドの活用が不可避ななか、クラウド活用を組織内で推進する「クラウドCoE(CCoE)」が注目されています。本記事では CCoE について解説します。

CCoE(クラウド CoE)とは

以下の本章の各節では、CCoE(クラウド CoE)の定義やその成立史、そして主要なパブリッククラウドサービス事業者がそれぞれどのように CCoE を位置づけているかを見ていきます。

定義

2021年頃から日本でも次第によく聞くようになった CCoE(クラウド CoE)は、現在進行系で発展している概念・用語にはよくあることですが、その定義にはいまだ幅があるように見えます。しかし、それらの共通点を見ると、

「組織内でクラウドを導入し、継続的に運用することを推進する機能横断的なチームで、組織外におけるベストプラクティスを持ち込んで活用したり、組織内で新たなベストプラクティスを生み出すことをその目的とする」

といったあたりがひとまずの最大公約数的な定義と理解してよさそうです。

本節の以下の各項で、やや細かく見ていきましょう。

そもそも「CoE」とは

CCoE(クラウド CoE)が「クラウド分野における CoE」ということであれば、CCoE を理解するために「CoE」について見ることにも意義はあるでしょう。

CoE とは、センター・オブ・エクセレンス(Center of Excellence)を略した用語です。もともとは大学などの研究機関に設置された優秀な研究者を集めた研究拠点を指し、その歴史は1930~40年代の米国にさかのぼることができます [1]。米・国立科学財団(NSF)はこの CoE を以下のように定義しているそうです。

人・アイディア・ツールを十分な規模で統合させることにより、重要な科学技術分野や学際的研究領域に大きなインパクトをもたらすものである。異なる学問分野やセクターから才能ある人材を臨界量(クリティカルマス)まで集め、特定の研究課題に焦点を絞る。研究と教育の統合の機会を生み、革新的でリスクの高い研究を行い、連携を通じて産業界や政府および教育界全体へ資源を提供する。[1]

学術界において始まった CoE が、現在では、研究機関以外の企業・組織においても優秀な人材を集めた全社横断的な専門組織も意味するようになっています。

さまざまな意義

後述する「CCoE本」では、クラウドの活用推進や DX の推進のために全社横断型のチーム CCoE の組成が不可欠だと述べられています。

同書によれば、クラウド活用を推進するうえでは「積極的なクラウド活用推進」と「安心・安全に活用するためのクラウド統制」の攻守双方の姿勢が必要だといいます。クラウドのメリットを享受するためには、「守り」の比重が高くなってしまいがちな IT 部門ではなく、「既存の組織の枠に縛られず、攻めと守りをバランスよく維持できる新たな組織」によるクラウド活用推進が求められると説きます [2]

一方、CCoE はよりオペレーショナルな視点でも有意義です。

Google Cloud の提供するビジネスパーソン向けの基礎学習プログラム「Cloud Digital Leader」では、その 4つめのコース「Understanding Google Cloud Security and Operations」のなかでクラウド費用の管理というトピックを取り上げます。効果的にクラウド費用を管理するには財務・技術・ビジネス部門を横断した協力関係が必要とされますが、その協力関係のあり方のひとつとして、CCoE のような集権的なハブ(a centralized hub)があると説明します [3]

この説明は、別の記事「用語解説:FinOps」でも見たように、FinOps(クラウド FinOps)の音頭を取る集権的な「FinOps Team」が CCoE の一部として存在することがあるということを示しています。

成立の背景

本節では、CCoE(クラウド CoE)という概念がどのような歴史をたどって成立したかを見てみます。

2011年前後の議論(Deloitte)

"Cloud CoE" という用語の最も古い用例のひとつは、米 Deloitte Consulting が2013年まで発行していた年次レポート「CIO Compass」の2011年版 The 2011 CIO Compass: A field guide to practical IT strategy and planning(2011年11月)に登場します。

同レポートの「IT 組織のデザインとガバナンス(IT organization design and governance)」という章に収められた論文「未来の IT 組織を設計する(Achitecting the IT organization of the future)」では、クラウドコンピューティングに代表される新たな技術潮流が従来の IT 組織の編成を変容させうるとしたうえで、

将来の IT 組織は、企業・組織内でのクラウドサービスの導入と進化をドライブし、時には、戦略的優位性のためにクラウドコンピューティングを活用する事業に助言を与えるクラウドコンピューティングの「CoE」(a cloud computing "center of excellence")を備えることになるかもしれない。

と予測します [4]

CCoE をめぐっては、次項で取り上げる AWS のブログ記事以降の議論が取り上げられることが多いですが、Deloitte のレポートはかなり時代を先取りしていたように見えます。

また、この論文では「未来の IT 組織」の可能性をできるだけ幅広く想定しようとしているためか、CCoE に全社のクラウド管理を担わせるパターン(こちらを「コンプライアンス型 compliance archetype」と呼んでいます)とは別に、各事業部門(BU)傘下の IT チーム(BU IT)にそれぞれ CCoE を置いて、全社 IT 部門傘下に CoE 管理(CoE management)チームを設置するという「グロース型 growth archetype」のパターンも想定している点も興味深いところです [4]

2015~2016年頃の議論(AWS)

現在通常使われる意味での CCoE の源流は、AWS で Global Head of Enterprise Strategy(当時)を務めていた Stephen Orban 氏による 2015年9月のブログ記事 "7 Best Practices for Your Enterprise’s Journey to the Cloud" と言われています。

この記事を執筆した Orban 氏は、AWS 入社以前に Dow Jones や Bloomberg などで CTO や CIO などを歴任しています。彼はこの記事を「歴史ある大企業において、意味のあるかたちでクラウドを導入するプロセスは長い旅路(Journey)である」という記述から始め、成果を出しているエンタープライズ企業に見られる 7つのベストプラクティスを紹介していますが、その 5つめに「専門組織を組成すること(Create a Center of Excellence)」を挙げています [5]

クラウド導入の旅路はアプリケーションデリバリーとインフラのチーム間の境界を再考する好機と語る Orban 氏の念頭には DevOps に近い課題意識を読み取れますが、わずか 1パラグラフの短い記述のなかですでに「ベストプラクティスやガバナンス、自動化を組織横断的に整備する Cloud CoE」という基本的な役割が語られています。

翌 2016年のブログ記事 "How to Create a Cloud Center of Excellence in Your Enterprise" で Orban 氏は "CCoE" という単語を用いながら、さらに思考を展開しています。

エンタープライズ企業におけるクラウド導入は大きな変革であり、重大なイニシアティブに特化したチームを持つことはそうしたチェンジマネジメントの成否に大きく影響すると説く Orban 氏は、CCoE を「ベストプラクティス、フレームワーク、ガバナンスを生み、共有し、整備することに専従するチーム」と位置づけ、「さまざまな専門性(開発、システム管理、ネットワーク技術、IT 運用、データベース管理 など)を持つ 3~5名をひとつにまとめたチーム」を推奨しています [6]

以上で見たように、CCoE という概念の海外(米国)で成立し、受け入れられたのは 2015~2016年頃だったようです。

本記事の執筆者の個人的な経験では、はじめて CCoE という肩書を名刺に入れた人と出会ったのは 2019 年の初頭でした。海外におけるプラクティスを積極的に学び取って実践しているような企業であっても、日本の企業と米国の企業とでは CCoE というチームの組成には 2~3年程度の時差があったのではないかと感じます。

各パブリッククラウドサービス事業者による位置づけ

本節では、CCoE をパブリッククラウドサービス事業者各社がどのように位置づけているか、各事業者のドキュメントで確認したいと思います。いずれの事業者も、それぞれの「クラウド導入のためのフレームワーク」の中核として CCoE を位置づけられています。

AWS

AWS は「AWS Cloud Adoption Framework」[7] に関連するかたちで CCoE(あるいは Cloud Enablement Engine = CEE)を位置づけています。

Azure

Azure のドキュメントでも、CCoE は「クラウド導入フレームワーク」のなかに位置づけられています [8]。人員が適切に組織化されていなければ達成できず、適切に作業を遂行するスキルを持つ人材なくしては成功しないとされる「クラウド導入」を適切に遂行し、その後の長期的な運用のため、フレームワークでは必要な組織について整理されています [9]

Azure のドキュメントで興味深いのは、クラウドの導入・運用のためのチームの「成熟モデル」が提示されている点です。一般的に下記のような順番で進むとされています [10]

  1. クラウド導入チーム
  2. MVP のベストプラクティス
  3. 中央 IT チーム
  4. 戦略的連携
  5. 運用での連携
  6. CCoE

この成熟モデルでは、クラウドの導入への投資拡大や、それにともなうビジネス価値が実現していくしたがってフェーズが移行していくと説明されています。

Google Cloud

Google Cloud は CCoE についてホワイトペーパー "Building a Cloud Center of Excellence" を公開しています [11]

より深く学ぶためには

コミュニティ

Google Cloud の日本のユーザー会「Jagu'e'r(Japan Google Cloud Usergroup for Enterprise)」には「CCoE 研究分科会」が設置されています。

書籍

本記事でも「定義」の節などで引用をしましたが、Jagu'e'r の運営を担当されている黒須さんらによる書籍は CCoE をテーマに出版された日本初の本で、「CCoE本」と呼ばれています。

参考文献

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