この記事では、パブリック・クラウドのリセリングをするうえで考慮するべきクラウドコストの管理と請求業務の課題についてまとめています。リセラーが抱えるクラウドコスト関連の課題解決のお役に立てれば幸いです。記事の構成は下記のとおりです。記事にはパブリック・クラウドのリセール市場全体の説明も含まれていますが、課題やソリューションに興味がある場合は冒頭部分は飛ばしてください。
パブリック・クラウド市場の成長
まず、クラウドリセラーが取り扱うパブリック・クラウド市場について確認します。
「変動コスト」「コストメリット」「俊敏性」「グローバル展開」「設備投資が不要」「速度と迅速性」などの利点を求めたクラウドシフトの流れは民間セクターでは着実に進んでおり、パブリックセクターにもその波は及んでいます。
IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社の調査によると、国内のパブリック・クラウド(IaaS・PaaS)市場は年平均成長率 30%で推移することが見込まれ、2026年の市場規模は2021年比約2.4倍の3兆7,586億円になると予測しています。
市場規模の拡大と比例して各パブリック・クラウドを再販するリセラーも増加しています。2021年時点でAWS 約705社、Azure 約140社(2020年時点 CSP)、Google Cloud 約350社ほどであるパートナー企業数は、 さらに増えると見込まれます。そのなかには、すでに別の商品・サービスを提供することで顧客ベースを有しているIT商社・ITコンサルティング事業者が、パブリック・クラウドも提供するような傾向も見られます。
クラウドリセリングのビジネスモデルは、クラウドベンダーからクラウドサービスを仕入れ、それをエンドクライアントへ提供するものです。「規模の経済」の考え方から、仕入れ量が多いほどリセラーは安く仕入れることができ、エンドクライアントへ割引価格で提供できるようになります(クラウドベンダーによって割引率は変動します)。エンドクライアント数や利用料を増やすことで、さらに割引も増え、取扱高も増えるのでクラウドベンダー、リセラー、そしてエンドクライアンとの間でWin-Win-Winの関係を築くことができます。
リセラーが抱えるクラウドコスト関連の課題
ここまでパブリック・クラウド市場の成長と、それにともなうクラウドリセラー事業への新規参入企業の増加について確認しました。一方で、新規参入するクラウドリセラーにとっての潜在的な課題もあります。
大きな課題のひとつはコスト・請求管理に関わるものです。
クラウドリセラーのビジネスモデルはエンドクライアント数や利用料が増えることでメリットが生じることを説明しましたが、エンドクライアント数や取扱高が増えるということは、同時に、エンドクライアントへの請求書発行業務のオペレーションや管理コストも増えることを意味します。さらにクラウド導入メリットの一つである「従量課金」はこれに拍車をかけ、業務を複雑化させます。
クラウドリセラーは、毎月変動するエンドクライアントのコスト管理や請求書発行をクラウドベンダーから請求書を受領後、数日~1週間以内に行うことが一般的です。エンドクライアントの利用金額集計、請求金額の確認、請求書の発行の一連の処理には膨大なオペレーションコストを要します。下記は毎月の一般的なオペレーションの例です。
- クラウドベンダーから請求書を受領
- 請求書を確認
- 請求データを指定の各ベンダーポータルからダウンロード
- エンドクライアントごとに請求金額を集計
- 集計された金額を営業担当含め確認
- 請求書を発行
煩雑な集計処理を自動化・半自動化するため、Excel・バッチ処理などの内製ツールを使うことが一般的ですが、これに加えてエンドクライアントごとに契約形態・契約条件が異なっていたり、集計ツールの実行に必要なデータのフォーマットに変更が生じた場合には、適宜集計ツールを改修する必要があります。請求発行システムを別で利用している場合にはシステムへの連携、メンテナンスが必要となります。
一般的なソリューション
オペレーションを効率化するため、AWSではAWS Cost and Usage Reports、AzureではAzure Partner Center、Google CloudではCloud Billingをもとに集計処理の自動化をすることが一般的です。Excelマクロによる集計ツールや自社開発のバッチ処理などの方法が多く見られます。
上記の方法で自動化は可能ですが、別の課題も発生します。開発したツールのメンテナンスコストや人材の確保、さらにはツールの属人化問題など。急速に成長するクラウド市場に追従するために必要となるリソースは日を追うごとに増え続けます。
さらに、クラウドの集計業務には数少ない優秀なエンジニアのリソースをあてなければいかないパターンが多くあります。何も解決をしないままだと運用コストが気づかないうちに膨大になり、脱することが困難な状況になっていきます。昨今では専門知識のあるクラウドエンジニアの人材不足は深刻化していると話題になっていますが、そのような貴重な人材に毎月の請求業務、コスト集計業務に対応してもらうことになるということです。
ベストプラクティス
多くの企業では上記のように課題をかかえながらも毎月の請求処理、クラウドコスト管理業務をこなしているわけですが、本来あるべき姿というのはどういうものなのでしょうか。下記では複数のリセラーのクラウドコスト関連の業務を比較的近い立場で支援しているアルファスが考えるベストプラクティスを記載しております。
- まずは、ベストプラクティスを考えるうえで理想的な状態を定義したいと思います。
- オペレーションコストがなるべく発生せず、毎月決まった期間内に請求書の発行ができる状態
- 管理、メンテナンスを最小限に抑え、管理工数がかからない状態
- 請求業務にかかるオペレーションの属人化によるリスクを軽減できている状態
- 低いリスクで長期的に継続して請求業務をおこなえる状態
- 目標とする利益率を保てている状態
このようにできる限り業務を自動化し、毎月発生する請求業務にかかるオペレーションコストを最低限に抑えることが理想となります。上述した内容と繰り返しになりますが、多くの企業では効率化を実現するために、Excelマクロや社内システムを開発することで効率化を図っています。ただし、ここで重要になるのが業務効率化を目的に確保しなければいけないリソースや開発完了後にかかるメンテナンスコスト、属人化問題などが軽視されてしまう傾向にあるということです。AWSの仕様変更に追従するためのメンテナンスや複数顧客からの要望に答えるための追加機能実装などに対応するため、クラウドコストを理解している優秀なエンジニアのリソースが継続的に必要になります。ミスの許されない請求業務は特にプレッシャーになることが多く、継続的にシステムを運用するには想定以上の負荷がかかることが予想できます。
これらを解決し、理想に近い状態を実現する方法はいくつか考えられます。請求業務自体を別の企業へアウトソーシングする方法や、クラウドコストを専門的に扱うサービス・ツールを導入する方法です。優秀な人材を請求業務やコスト管理業務にあてるのではなく、アウトソーシングすることで、よりビジネスに直結する業務に注力することができるようになります。
AWSのホワイトペーパー「AWS Partner Profitability and SuccessInsights and Best Practices from Successful AWS SI Partners」でも記載のある通り、各国のMSP(Managed Service Provider)のトレンドとして利益率と成長率を確保するために効率化できる業務を見直しアウトソーシング、またはツールの導入を積極的におこなう企業が増加しています。
ツールを導入することで浮いたリソースを別のビジネスに直結する重要な業務にさくことで、事業を加速させることができます。
最後に
本記事ではパブリック・クラウドのリセラーが抱える課題について説明してきました。実際に課題を抱えている企業にとっては身近に感じるものもあったかと思います。今後成長する市場だからこそ、継続的に成長できる環境を整えておくことで理想とする成長曲線を描くことができます。アルファス株式会社ではAWSプレミアパートナーをはじめ、複数のAWSパートナー、Azureパートナー、Google Cloud パートナーを支援しています。本記事内で記載した課題感を抱えている企業様や、これからリセリングビジネスをはじめる上で請求業務の自動化を検討されている企業様は下記お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
参考文献
- New AWS Partner Report Highlights Importance of Balancing Growth and Profitability
- 国内パブリッククラウドサービス市場予測を発表
- AWSはインフラを活用するパートナーを切望している――、AWS Partner Summit基調講演
- 「Google Cloudはパートナーが生命線」国内パートナー戦略を強化